1)聞こえない子どもの発するホームサイン

アメリカにおいて、聴者の両親のもとに生まれた聴児は、英語を獲得します。手話を使うろう者の両親のもとに生まれたろう児は、多くの場合、第一言語としてアメリカ手話を自然に獲得するでしょう。ろう者の両親のもとに生まれた聴児は、両言語の程度の獲得の程度の違いはあっても、アメリカ手話と英語の両方を獲得することになります。では、聴者の両親のもとに生まれたろう児の場合はどうでしょうか。
両親が聴者であるため、アメリカ手話の環境を保障することができず、家庭内ではアメリカ手話の獲得は困難です。また、聴覚に障害があるため、英語を自然に獲得することも困難です。このようなことから、ろう児の言語獲得(習得)には、早期からの教育的介入が不可欠でした。そのため、聴覚障害が発見されるとすぐに教育が開始されることになります。
ろう児の教育に関しては、教育方法という点から2つに大別され、それぞれ実践されています。1つは、聴覚障害ゆえにおこる音声言語の入力の不足を、補聴器による残存聴力の活用や唇の動きを読み取る読話などで補いながら、音声言語の獲得を促す教育法で、聴覚口話法といわれています。聴覚口話法では、幼児期の手話使用は禁止されていることが多く、そのような場合、子どもが手話に接することはありません。聴覚口話法は、残存聴力の活用と読話だけでは、言語入力を補いきれないことも多く、聞き取りにくい子音の部分だけ手指で表すキュードスピチや話し言葉にあわせて単語レベルで手話を用いる同時法など、手指を使った指導法を生み出すことになりました。しかし、聴覚口話法であっても、キュードスピチや同時法であっても、聴覚障害ゆえに制限のある音声言語の入力を種々の方法によって補うことにより、ろう児の音声言語獲得(習得)を狙うというところに特色があります。
もう1つは、ろう児にとっては、言語入力さえ保障されていれば確実に獲得できる手話言語をまず獲得して、その手話言語を使用しながら、音声言語の読み書きを第二言語として学ぶ教育法で、パイリンガル教育と呼ばれています。パイリンガル教育を採用しているろう学校で学ぶろう児は、ろう学校にいる教師や両親がろう者であるろう児の手話言語入力を受けることにより、聴児が音声言語を獲得するのと同じように、第一言語として手話言語を獲得することになります。
アメリカの心理学者であるGoldin-Meadowは、口話法によって教育を受けているろう児の自然発生的なジェスチャーに着目し、その特徴を明らかにしました(GoldinMeadowandMorford,1985;Goldin-MeadowandMylander,1990)。Goldin-Meadowが対象にしたろう児とは、1歳4ヶ月から5歳9ヶ月までの10人のろう児であり、10人すべてが聴者の両親のもとに生まれた先天性の聴覚障害を持つ子と、もでした。また、この対象児が通っていたろう学校は、口話法によって教育を行っており、学校内で手話言語を使用することは禁止されており、対象児が手話言語を見る機会はまったくありませんでした。また、研究開始時におけるこれらの対象児の英語力は非常に厳しく、手話言語入力も音声言語入力も厳しい状況でした。このように、言語入力がかなり制限されているにもかかわらず、もし何らかのジェスチャーが観察されるとしたら、これらのジェスチャーは親や先生から学んだものというより、自ら創造したジェスチャーということができるでしょう。GoldinMeadowは、10人の対象児の表出したジェスチャーを観察する中で、言語あるいは言語的なものを作り出す人聞が生まれながらに持っている能力を検証しようとしたのです。
分析の結果はどうだったのでしょうか。GoldinMeadowは、対象としたろう児によって表出されたジェスチャーが、多くの点で言語的な特徴を持っていることを明らかにしました。
まず、対象児が表出した指さしに焦点を当てました。通常、指さしは、環境に依存したジェスチャーであるといわれています。指さしだけを見ていてもその意味するところはわからず、指さしが差し示す方向に日を向けることによって初めて、指さしの意味するものがわかるのです。言い換えれば、指さしは、それが「何であるか」を特定するのではなく、それが「どこにあるか」を特定する機能を持っているのです。音声言語話者であっても、指さしは、場所を示すときに用いられたり(例:「駅はそこをまっすぐ行って、信号を右に曲がるとあります。」)、指示代名詞とともに用いられたり(例:「あれ取って。」)します。このように、音声言語話者が指さしを使用する際には、環境と密接に結び、ついて使用されるのです。
しかし、対象となったろう児が表出した指さしは、このような音声言語話者が使用する指さしと、機能的に異なっていたのです。第1に、指さしと指さし、あるいは他のジェスチャと結び、っき、文のようなものを形成して表出していたことが挙げられます。第2に、これらの指さしが、聴児が音声言語の名詞を使用するのと同じような範囲で用いられていたことがあります。第三に、ろう児は、今ここにあるものだけでなく、その場にないものに対しでも指さしで表そうとしていました。たとえば、「かつてそこにあったが、今はすでになくなってしまったもの」や「視覚的遮断物によって見えないもの」に対しでも、指さしによって表現していたのです。これらのことから、ろう児が使用する指さしは、環境に拘束されたものではなく、今ここの空間を越えたより広い範囲の事象を表すことができるものとなっていたのです。
次に、手型がカテゴリカルに使用されていたということが挙げられます。言語の1つの特徴として、有限の要素から無限の事柄を表現することがで
きるということが挙げられますが、対象児が表出したホームサインを構成する手型は、有限の手型に限られており、それぞれの手型は、手話言語のCL(classifier:類辞)ときわめて類似した特徴を有していました。さ
まざまな手型が、「丸いもの」や「細長いもの」などの意味を持っており、それが「静止」や「弧運動」などの運動と結びつくことによって、物体のさまざまな状態を表すことができたのです。これは、手話言語の中のCLの機能そのものです。
最後に、ジェスチャの統語的ルルについてです。通常、他動詞文であれば、「主語」「目的語」「動詞」の3つの要素があります。2語文表出時、これら3つの要素のうちどの2つを選択し、どのような順番に並べるのかに着目しました。その結果、英語を獲得しつつある聴児も対象となったろう児も、「動詞」と「目的語」を選ぶ割合が高いということで共通していました。しかし、興味深いことに、英語を獲得しつつある聴児では、
「動詞目的語」という語順を取ることが圧倒的に多いのに対し、対象となったろう児では、「目的語動詞」の語順をとることが多いという結果にあるように、聴児とろう児では異なる結果になったのです。ただし、聴児もろう児も、2語文の統語構造において、個人内で一定のルルがあることがわかりました。
Goldin-Meadowが対象としたろう児は、少なくとも観察時点では、英語も手話も言語入力が極めて制限された環境で表出された身振りが、極めて手話言語と類似しており、言語的な構造を兼ね備えていたという驚くべき結果でした。これらのことは、言語入力が制限されていたとしても、かなり複雑で精微である言語的なシステムを作り出す力が、生得的に備わっているということを強く示唆しています。しかし、Goldin-Meadowが対象としたろう児は、口話法による教育により、程度の差はあれ、以後英語を獲得する中で、このホームサインは消滅するか、何らかの形で手話入力が保障されると手話言語に置き換えられることになるでしょう。では、このホームサインが大人になっても維持されるようなことはないのでしょうか。

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