2.視・空間スケッチパッドの役割

作動記憶におけるもう1つのサブシステムである、視・空間スケッチパッドは、手話の学習でどのような役割を果たすのでしょうか。
ウィルソンら(Wilson&Emmorey,1997)は、アメリカ手話(ASL:AmericanSignLanguage)ーを母語として取り上げた実験研究を行い、手話の母語話者における作動記憶では、視・空間的「音韻ループ」(visuo­spatial“phonologicalloop”)と呼べるような、音声言語での音韻ループに類似した構成要素があることを見出しています。同時にウィルソンら(1997)は、手話の母語話者における手話ルプ(signloop)が、音声言語の母語話者における視・空間スケッチパッドのような、より一般的な視・空間能力に依存するのか、それとも、手話母語話者にしか存在しない、視-空間処理についての(作動記憶内の)ー独立した構成要素なのかという疑問に対して、1つの答えを出しています。それは、手話母語話者の失語症に関する研究結果(Bellugi,Poizner,&Klima,1989;Poizner,Klima,&Bel-lugi,1987)をふまえたものです。手話にかかわる視・空間的処理は、より一般的な視・空間能力からはかなり独立したものであると述べています。
ただし、これは母語としての手話に関する答えであり、第二言語としての手話についても同じことが言えるかどうかは、定かではありません。音声言語を母語とする聴者が手話を学習するときは、視・空間スケッチパッドの働きが重要である、という可能性も依然として考えられます。そこで松見(2005)は、新たに2つの実』験を行い、この可能性を探りました。手話学習において、(音声言語での言語情報に対する)非言語的情報の空間成分や視覚成分の処理ならびに一時的保持を妨害するような並行課題を採用し、その条件下で手話動作の符号化がどのように行われるかを検討したのです。
実験1では、並行課題として「ぺダール踏み」課題が採用されました。音声言語について視・空間スケッチパッドの役割を検討した研究では、従来、並行課題としてタッピング課題(指を使い、一定のリズムで机の上を軽く叩き続ける課題)や標的課題(目隠しをして、前方の振り子にビームをあてる課題)、あるいは回転板課題(回転する円板上の特定部分にぺン先をあてる課題)などが用いられています。つまり、手を使った課題が採用されています。しかし、表現手段の中心が手の動きにある手話では、手を用いた並行課題を採用することは、主課題である手話の記憶に制限を加えることになります。そこで松見(2005)は、手を使わない視・空間並行課題として、足の運動を用いた「ペダル踏み」課題を設定しました。
実験の基本的な流れは、前述の松見(2002)とほぼ同じです。手話の学習経験がない大学生に、主課題として、ビデオ画面上に1個ずつ提示される手話単語を覚えてもらいました。並行課題を与える条件では、メトロノームの音に合わせて1秒に1回の割合で、足元のペタソレを踏み続けるように教示されました。「ペダル踏みJ課題を行った条件と行わなかった条件の記憶成績を、手話単語のイメージ性の高・低別に示したのが(図5-1)、(図5-2)です。己の結果から、手話単語の再生成績は、視・空間並行課題の有・無にかかわらず、手話単語のイメージ性の高・低と学習試行数によって異なることが明らかになりました。イメージ性の高い手話単語と低い手話単語の成績差の生じ方は、並行課題が有る条件と無い条件で類似しています。これは、並行課題として構音抑制課題を用いた松見(2002)の結果と一致するものです。視・空間並行課題として採用した「ペダル踏み」が、新しい手話単語の符号化を妨害したとは言えず、視-空間スケッチパッドが手話の単語学習に重要な役割を果たす可能性は示されませんでした。
この実験1では、学習セッションの場面を録画したビデオテープの分析から、興味深い現象が明らかになりました。1秒間隔で行う「ペタソレ踏み」のリズムに、手話表現での手の動きを合わせる被験者が観察されたのです。手話における手の運動は、足を使った視・空間並行課題と協応させることができるようです。手話動作の符号化を妨害すると予測された視・空間並行課題が、逆に、手話動作をリズミカルに符号化させ、手話単語の学習を促進した可能性があると言えます(この点は、被験者の内省報告からも確認されました)。
松見(2005)は、作動記憶における視・空間スケッチパッドの役割を再検討するために、視覚的な並行課題を採用した実験2を行いました。視覚言語である手話は、基本的には手の形、位置、動きの3要素から成り立っています。よって、その符号化や検索に視覚イメージ表象や運動イメージ表象が関わることは否定できません。非言語的情報が、視覚成分と空間成分の2つで構成されると仮定するならば、松見(2005)の実験1で用いられた「ペダル踏み」は、もっぱら空間成分に関わる処理を要求するものであったと考えられます。つまり、手話の学習における視・空間スケッチパッドの役割を解明するには、非言語(非音声言語)的情報における視覚成分の処理と一時的保持を妨害するような並行課題を採用し、その条件下で手話単語の記憶成績を調べる必要があるということです。
手話の学習経験がない成人を被験者とし、手話の動作幅(手の形、位置、動きについての前後、上下、左右の空間的な幅)が大きい単語({雨}ー{仕事}ー{食べる}など)と小さい単語({月}{本当}{考える}など)を、手話のイメージ性の高・低が偏らないように選定した上で、意味として対応する日本語単語といっしょに覚えてもらいました。その際、視・空間並行課題有り条件では、手話が表現されるビデオ画面の上部中央に2×2のマトリックスが挿入されました。そして、手話単語の提示と同時に、マトリックス上の4つの場所のいずれかに、6種類の図形「○、△、口、◇、▽、☆」のどれか1つが白色で提示されたのです。被験者は、この画面を視野に入れながら手話単語を覚えるように教示されました。被験者が並行課題を無視していないかどうかについては、後に行われる図形の再認テストで確かめられました。
結果は(図6-1)、(図6ー2)のようになりました。第1試行では、動作幅の小さい単語も大きい単語も、並行課題が与えられた場合に再生成績が低くなっていることから、マトリックス上の図形を視野に入れることにより、図形情報に関する視覚的リハサルが行われ、主課題である手話単語の符号化が妨害されたと言えます。この現象は、第2試行でも動作幅の大きい単語で認められました。動作幅の大きい単語は、それが小さい単語に比べて、手の形や移動距離、表現空間が大きく、より多くの視覚的情報を処理し、かっそれを一時的に保持しなければなりません。したがって、第2試行でも並行課題の影響を受け、手話単語の学習にかかわる処理資源が不足したと考えられます。
学習試行数の増加にともなう再生成績の上昇パターンをみてみましょう。並行課題無し条件では動作幅が大きい単語と小さい単語がほぼ同じであることがわかります。他方、並行課題有り条件では、動作幅の小さい単語が第1試行と第2試行の問でのみ成績差を示したのに対し、動作幅の大きい手話単語は、各試行間で有意な成績差を示しました。しかも、第2試行では、動作幅の小さい単語のほうが大きい単語よりも再生成績が高かったのです。視・空間並行課題としての図形認識課題の有無によって、手話単語の再生成績の上昇パターンが異なることがわかりました。これは、並行課題として空間成分にかかわる「ペダル踏み」課題を採用した松見(2005)の実験1とは異なる結果です。第二言語としての手話の学習では、視・空間情報の空間成分ではなく、視覚的イメージなどの視覚成分が重要な役割を果たすと言えるでしょう。

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