2.被験者実演課題

手話単語の産出では、刺激項目である母語の単語について(それが明確に提示されるときも、心の中で思い浮かべられるときも)、それに対応する動作が反応項目として検索される必要があります。逆に手話単語の理解では、手話の動作表現が刺激項目として目に入るので、それに対応する母語の単語が反応項目として検索されなければなりません。
では、それぞれの検索が正しく行われるためには、手話単語をどのような方法で学習すれば良いのでしょうか。
手話の学習では、先生の手話を直接に見たり、またビデオテープ、CD、DVDなどの動画を見たりして、動作表現を覚えることができます。手話辞典や手話の本を利用し、写真や線画などの静止画を見て覚えることもできます。どの教材を用いても、動作を真似ながら、音声言語での意味といっしょに手話表現を覚える方法が一般的です。このやり方は、学習課題の性質という観点において、「手を中心として、身体を動かしながら言語の意味を覚える行為である」と捉えることができます。そしてそれは、認知心理学の研究で採用される被験者実演課題(subject-performedtasks)と共通する部分が多いのです。
被験者実演課題は、行為事象(actionevents)を表現した言語の記憶研究でよく使われ、「ピアノを弾く」「本を聞く」「ボルを投げる」といった語句を、実際に動作を行いながら覚えてし、く課題です。これまでの研究では、被験者実演課題を行ったほうが、口頭や筆記によって同じ語句を反復する(言語課題と呼ばれる)よりも、語句の再生成績が高くなることがわかっています。この現象は、被験者実演課題の効果、あるいはSPTs効果と呼ばれ(Cohen,1981)、音声言語の研究では、次のようなことがわかっています。
まず、被験者が行為の「ふりをする」だけでも(行為の対象物が現物として日の前に存在しなくても)SPTs効果は現れます(Zimmer&Engel­kamp,1989)。この「ふりをする」というのは、手話で具象物や具体的状況を表現することに似ています。また、動作を行わずに、自分が動作をすることを思い浮かべる自己イメージ課題(self-imagerytasks)も、
SPTs効果と同程度の効果があると言われています(Engelkamp,1995)。手話の単語学習では、学習者が実際に手を動かすことが重要だと思われていますが、それが難しいときは、自分が手を動かすことを思い浮かべるだけでも一定の効果があると予想できます。ある行為を心の中で、行うことは、外に表わされる遂行と多くの過程を共有するのです(Heuer,1985)。
松見(1999)は、これらのことをふまえて、未知の手話単語の学習方法に被験者実演課題と自己イメージ課題を用い、両課題の効果を比較しました。その際に、手話単語の意昧を表す音声言語の属性として、具象性(concreteness)を取り上げています。音声言語では、具象性が高い単語の方が低い単語よりも記憶成績が良くなるという具象性効果(Paivio,1986,1991)が報告されており、手話単語の記憶成績でも、そのような違いがみられるかどうかを検討したかったからです。
手話の学習経験がない大学生に、被験者実演課題と自己イメージ課題の2つを行ってもらいました。2拍以内の連続動作で表現できる手話単語を材料とし、その半数は日本語での具象性が高い単語(「子供」「新聞」「時計」など)ーで、残りの半数は日本語での具象性が低い単語(「大体」「感情」「利用」など)ーでした。女性が表現する手話単語を1個ずつ、日本語単語といっしょにビデオ画面上に提示し、被験者実演課題では手を動かしながら、また自己イメージ課題では、身体を動かさないで自分が手話を演じているところをイメージしながら、それぞれ覚えてもらいました。その後、被験者は、コンビュータ画面に1個ず、つ提示される日本語単語を見て、それを手話で表現するように求められました。
(図1)が実験の結果です。被験者実演課題と自己イメージ課題では、手話単語の再生成績に統計的な有意差は生じませんでした。これは、ドゥニら(Denis,Engelkamp,&Mohr,1991)による、音声言語で行為事象を表したときの単語記憶に関する研究結果と一致するものです。ドゥニら(1991)は、自分自身の行動を(自分の視点から)思い浮かべるときは主に運動感覚表象が働き、他者の行動を(第三者的に)思い浮かべるときは主に視覚的表象が働くと考え、それぞれを運動イメージ条件、視覚的イメ
ージ条件とし、被験者実演条件と比較しました。その結果、3つの条件の間で、単語の自由再生成績に差はみられませんでした。学習者が手話単語を覚える際は、動作を行うこと自体が重要なのではなく、記憶過程で視覚的・運動感覚表象を活性化することが重要だと言えるでしょう。手を動かすことによって、学習者は目で見える、あるいは運動を行う感覚を鮮明にもつことができ、それらの情報を心の中に蓄えることができるのです。したがって、荷物を持ったり、混雑した電車やパスの中にいたりして、手を自由に動かせない状況では、自分自身が手話表現するところを思い浮かべるだけでも、手話単語の記憶がある程度促進されると考えられます。自己イメージ課題を取り入れると、手がふさがったままでも手話単語の復習が効果的にできると思われます。
ところで、手話は視覚的な情報処理を要求する映像性(iconicity)の高い言語です。意味として対応する音声言語が、仮に具象性の低い(抽象的な)単語であっても、手話表現そのものは視覚的イメージを用いて符号化(覚え込むことが)できると考えられます。しかし、今紹介した松見(1999)の研究では、この推測とは異なる結果がみられ、音声言語の具象性が手話の学習容易性を規定する一要因であることが示されました。単語の使用頻度(その単語が日常生活でどの程度頻繁に使用されるかを表す指標)が高いことが条件になりますが、音声言語での具象性が高い単語は、手話単語としても学習段階の早い時期から覚えたほうが良いと言えるでしょう。
なお松見(1999)は、音声言語の具象性とイメージ性(単語の表す内容がどの程度イメージできるかを表す指標)とが高い相関をもつこと(Mar­schark&Cornoldi,1991)をふまえ、音声言語のイメージ性と手話のイメージ性がある程度の相闘をもっと考えました。ただし、音声言語でのイメージ性と手話でのイメージ性は、質的にどこか異なる部分があることも指摘しています。音声言語での具象性が低い単語(たとえば「大体」で、平均評定値は1.5)でも、手話単語の再生率が86%と高いものがある反面、音声言語での具象性が高い単語(たとえは、{子供}で、平均評定値は5.6)でも、手話単語の再生率が42%と低いものがあったからです。

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