(3)コミュニケーション・メディア

聴覚障害児者の中でもろう者の心理的安定性や障害認識においては、手話が大きな役割を果たします。聴覚に障害がある者にとって、視覚的なコミュニケーション・メディアが有効であるのはいうまでもありません。しかし、視覚的なコミュニケーション・メディアといっても、文字もその1つですが、人と人が相対した会話場面における筆談のやり取りでは、音声言語と比較して、非常に少ない情報のやり取りしか行えません。その点、手話であれば、音声言語の会話と遜色ない速度で、量的にも同等のコミュニケーションを行うことができるため、聴覚障害者にとって利点が多くあります。また、手話を使用する成人ろう者と出会う機会があれば自己の将来像を自然に思い描くようになるでしょうし、手話を使用することにより聴覚障害者としての自己認識も深まってし、く傾向にあります。
しかし、全ての聴覚障害児者が手話さえ用いれば良いという訳ではありません。聴覚活用が可能な難聴者の中には、反対に手話によるコミュニケーションに困難を感じ、むしろ口話や要約筆記を好む者も少なくありません。藤巴(2002)は、手話の使用に対して慎重で要約筆記に高い期待をもっ難聴者の存在を指摘しています。音声言語で育った聴覚障害者は手話の語藁数の少なさや微妙なニュアンスを使い分けられない点において手話の使用に対して慎重で、要約筆記を好む傾向にあります。しかし、要約筆記は1対1のやりとりには適しているものの、会議などの多数でのやりとりには向かないため、大勢の場では手話を使うなどの工夫もみられます。
また、聴覚障害児者の生き方として、アイデンティティの所在を“難聴者”に置く人々が存在することも理解していく必要があるでしょう。難聴者の中には、軽度・中度の聴覚障害で聴覚をかなり活用することができるため聴者の価値観に近いアイデンティティを求める人々もいれば、重度の聴覚障害があるためろう者の価値観に近いアイデンティティを求める人々もおり、コミュニケーション・メディアに関する考え方も様々です。難聴者の居場所は、ろう社会と聴者社会の二者択一の問題ではなく、第3の選択肢として難聴者という生き方も存在することを今後考えていく必要があります。難聴者のアイデンティティの所在における大きな問題は、重度の聴覚障害がありながら、聴覚活用を中心とした生活を送ることを目標にして努力をし続けた人々です。難聴者本人が様々な情報支援や心理的支援を受けながら生活できている場合は良いかも知れませんが、頼る人々がいない、支援体制がないなど、何らかの問題があるにもかかわらず、敢えてその問題を1人で努力して“克服”しようとしている方がみえます。このような難聴者は、努力で問題を克服できなくなった場合、心が押しつぶされ、無気力、対人不安、不安神経症など、心理的な病に陥ることがあります。今後は、難聴者のコミュニケーション環境の整備や心理的支援を検討していくことも課題の1つです。
コミュニケーション・メディアにはいろいろなものが挙け、られますが、その使用する言語やコミュニケーション手段によってやり取りの内容がわかるという実感や満足感が大切であり、円滑なコミュニケーションによって成り立つ人々とのふれあいが聴覚障害者にとって自己を変革させる契機となります(坂田、1990a,1990b)。コミュニケーション・メディアが何であれ、聴覚障害者と他者が相互に情報を伝え合えることが重要であることをしっかりと理解しておきたいと思います。
本章の記述でも、音声言語のコミュニケーションに困難を感じやすい聴覚障害児者にとって、自分に適したコミュニケーション・メディアの選択が自己の障害に対する認識を深めるきっかけとなり、アイデンティティを形成させるための重要な要因の1つとなることが繰り返し述べられました。その点で、手話の存在は、聴覚障害者の中でも、特に、ろう者にとって非常に重要な存在となります。しかし、手話をただ使うだけであったり、成人ろう者に数回会ったからといって、聴覚障害青年の全てがろう者としてのアイデンティティを見い出す訳ではありません。ろう社会・ろう文化を志向し選択するということは、音声言語を活用する機会を少なくし、聴覚をあまり活用せず、音声言語とは異なる手話言語の多様な文法表現を受容する方向に傾倒していく必要があります。そして、ろう社会の中で手話を用いて他のろう者とコミュニケーションを交わし様々な活動を行いながら、聴者社会の企業等で仕事に従事する中で成熟していったろう青年は、パイ・カルチャー(bi-culture)の思想を持ちながら、ろう者仲間と聴者仲間と共生して生きていくようになります。このような人々のアイデンティティは、ろう者と聴者の両方の世界を取り巻いており、必要に応じて臨機応変に対応していることを理解しておきたいと思います。

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