5.ろう者・難聴者・中途失聴者・人工内耳装用者

一般の社会では、聴覚に障害のある人々のことを話題とする際には、「聴覚障害者」 と総称した用語を使用することが多いです。しかし、聴覚障害者と一括して称したとしても、聴覚障害者は実に多様であり、また「ろう者」、「難聴者」、「中途失聴者」、「人工内耳装用者」と区分して呼ぶこともあります。しかし、これらの区分は暖昧で、様々な考え方があり、はっきりとした定義付けがなされていないのが現状です。
一般的には、「ろう者」は、先天的な聴覚障害者または乳幼児期に失聴した者で、90llOdB以上の聴力レベルで補聴器による聴覚活用が困難であるため、主たるコミュニケ ション言語を手話とする者。「難聴者」は、先天的な聴覚障害者または乳幼児期に失聴した者で、90llOdB以下の聴力レベルで補聴器による聴覚活用がある程度可能であるため、主たるコミュニケ ション言語を音声言語とする者。「中途失聴者」は、音声言語の獲得期以降に失聴した後天的な聴覚障害者で、主たるコミュニケーション言語を音声言語とする者。「人工内耳装用者」は、人工内耳を装用した者、とされています。
医学的な基準として、聴力レベルを用いて、lOOdB以上の聴力レベルの者は「ろう者」、lOOdB以下の聴力レベルの者は「難聴者」と分けることもあります。しかし、聴覚障害者の多くは、llOdB以上の聴力レベルの場合は補聴器による音声言語の聴取理解が困難な者が多い一方、90dB以下の聴力レベルの場合は補聴器による音声言語の聴取理解が可能な者が多くみられます。そして、90llOdBの聴力レベルの場合は、補聴器による音声言語の聴取理解が可能な者もいれは\困難な者もいます。先天的な聴覚障害者の多くは、聴力レベルがこの90llOdBの範囲にある者が多く、実際、全国の各ろう学校に通う児童生徒の聴力レベルの平均範囲に位置しています。このことを踏まえると、聴力レベルの数値だけで、ろう者・難聴者と区分することはできず、補聴器による残存聴力を活用し音声言語の聴取理解が可能であるか、否かが問題となります。
また、「中途失聴者」は、言語獲得期以降に失聴した者とされることが多いのですが、それも非常に暖昧なものです。この言語獲得期が、幼児期であるか、児童期であるか、思春期や成人期以降であるかで、中途失聴者の音声言語の聴取理解能力、自己の聴覚障害に対する考えや心理的状況が異なってきます。
「人工内耳装用者」は、人工内耳を装用すると、聴力レベルが40dB程度となり、1対lのコミュニケーションであれば、音声言語の聴取理解が可能な状況となる者が多いです。しかし、人工内耳装用者の中には、レベルが向上する中で、純音などの音が聴取できても、音声言語の聴取が困難な人々がいます。特に、先天性の聴覚障害児が人工内耳の手術を受け装用した場合、聴覚活用が可能となり音声言語の理解もできるようになる子どもが多くいる一方で、中には聴覚活用が可能でありながら音声言語の理解は困難な子どももいます。つまり、「音」のある・なしが理解できても、「ことば」として単語・文章・会話のいずれかのレベルて、理解できない場合がある訳です。
聴覚障害児者を、教育歴で区分する場合もあります。ろう学校で現在学んでいる・過去に学んだ者を「ろう児・ろう者」、地域の学校で現在学んでいる・過去に学んだ者を「難聴児・難聴者Jとすることがあります。実際、ろう学校に在籍する幼児・児童・生徒の聴力レベルの平均はlOOdBからllOdB程度で、残存聴力の活用ができても自然な速度の会話理解が困難な者が多いため、「ろう児」とすることがあります。しかし、聴覚障害児者は、聴覚障害のレベルや、コミュニケション・メディアが様々であり、かっ一貫してろう学校または地域の学校で学ぶ・学んだ者ばかりではありません。ろう学校には、人工内耳装用児、補聴器装用児、日常の言語を日本手話とする者など、様々な子どもが在籍しています。「ろう学校だから、ろう児が在籍する」とは、一概に言えないのが現状です。また、就学前はろう学校幼稚部で学んだ後で小中学校と高校は地域の学校で学ぶ者もいますし、中学校までは地域の学校で学んだ後でろう学校高等部で学ぶ者もいます。
このように、聴覚障害児者のろう者・難聴者・中途失聴者・人工内耳装用者の区分において、医学的基準や教育歴が聴覚障害児者の心理に大きな影響を及ぼすことは事実ですが、この条件のみで明確に区分できるものではありません。実際には、聴力レベノレ、教育環境、家庭環境などの要因とともに、聴覚障害児者の個々の性格や経験などの「心理的な要因」が反映されながら決定されるものであると、筆者は考えます。
ところで、木村・市田(1996)は、「ろう文化宣言」の冒頭で「ろう者とは、日本手話とし寸、日本語とは異なる言語を話す言語的少数者」であり、「日本手話を使うろう者というのは、一般的にいう言語習得期間に日本手話を習得した者」と定義しています。このように定義すると、ろう学校出身者でも小学部以前は聴覚口話法で学んだ後、中学部あたりから手話を学んだ者は「ろう者」として当てはまらないことになるし、幼少期の言語獲得前から手話を使用していたとしても、その手話が日本語対応手話であった場合はこれに当てはまらないこととなります。しかし、実際のところ、日本の社会において、自他共に“ろう者”と認める人々は、ろう学校や難聴幼児通園施設における口話法や聴覚口話法の下で音声言語の指導を受けた上で幼少期から青年期までを過ごし、青年期の途中または社会人となった後に手話と出会った者が多いのが現実ではないでしょうか?また、上農(1996)は、「聴覚障害者」 という概念が「ろう・中途失聴・難聴」の3つの集団を総称した呼称であることを指摘しており、各集団の差異の意味が一般社会の人々だけではなく、当事者の集団でさえ十分に理解されていない面があることを述べています。
以上のように、聴覚障害者の区分に関しては様々な定義がある現状にありますが、周囲の人々がレイベリング(labeling;名付け・レッテル貼り)を行うのではなく、聴覚障害児者本人が自己の日常生活やコミュニケーションの在り方を考えながら「私はろう者だ・ろう者だと思う」「私は難聴者だ・難聴者だと思う」などと自ら選択し、聴覚障害者としてのアイデンティティを形成していく必要性があるのではないでしょうか?

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